秀吉はあさひの夫に「但馬一国」を約束したのか|『豊臣兄弟!』前原瑞樹が演じる甚助(副田吉成)と但馬、『塩尻』の五万石

夕暮れの武家屋敷の門前で、迎えの輿へ向かう女性と、門の内でうつむく夫
この記事のポイント
  • 『豊臣兄弟!』第40回では、秀吉があさひ(倉沢杏菜)の夫・甚助(吉成、前原瑞樹)に離縁の見返りとして「但馬の国」を与えると申し出ますが、吉成は断固として拒むと伝えられています
  • 史実で旭姫の前夫とされる副田甚兵衛吉成は、秀長のもとで但馬攻めに加わり、但馬の城を任された人物でした。ドラマの「但馬」は、この縁を踏まえたものと考えられます
  • 江戸時代の随筆『塩尻』には、秀吉が「五万石を加増するから離縁せよ」と迫ったが、副田は加増を断って出家した、という話が伝わります
  • 一方、当時の但馬は秀吉の家臣たちが分けて治めており、「但馬一国」をそのまま与えるのは考えにくく、ドラマならではの誇張とみられます

妹のあさひを家康に嫁がせるため、秀吉はあさひの夫に離縁を迫ります。この夫・甚助(吉成)を演じるのは前原瑞樹さんです。『豊臣兄弟!』第40回では、そのとき秀吉が「但馬の国」を与えると申し出る場面があるようです。史実の旭姫の前夫は、どんな見返りを示されたのでしょうか。旭姫の前夫については甚助(副田吉成)とは、もう一人の候補については佐治日向守とはでくわしく書いています。

目次

副田甚兵衛吉成と但馬

旭姫の前夫の候補の一人、副田甚兵衛吉成は尾張の出身で、秀吉の直臣でした。秀長の与力として但馬攻めに加わり、但馬の多伊城(指杭城)を任されたことが記録に残ります。但馬は秀長が攻め取り、治めた国で、吉成にとっては自分が戦い、城を預かった土地でした(豊臣秀長とは)。

ドラマで秀吉が「但馬の国」を持ち出すのは、吉成が但馬で働いた史実を踏まえたものと考えられます。

迎えの輿へ向かう女性と門の内でうつむく男のイメージイラスト
夫と別れるあさひのイメージ(イメージイラスト)

『塩尻』の話 ─ 五万石を断って出家

江戸時代の学者・天野信景の随筆『塩尻』には、次のような話が伝わります。家康との縁組のため、秀吉は副田に「五万石を加増するから離縁せよ」と迫った。しかし副田は加増を断り、出家してしまった ─ というものです。

この話がどこまで事実かはわかりませんが、妻を差し出す見返りに領地を与えようとした秀吉と、それを拒んだ夫、という構図は、ドラマの場面とよく似ています。ドラマはこの話を下敷きに、見返りを「但馬一国」へと大きくしたのかもしれません。

▽ よく語られる話
秀吉はあさひの夫に、但馬一国を与えると約束した。
▼ 史実ではこうです
秀吉が但馬一国を与えると約束したという記録はありません。江戸時代の『塩尻』に「五万石の加増」を示されたという話が見えるだけです。当時の但馬は、出石の前野長康ら秀吉の家臣たちが分けて治めており、一国をそのまま与えるのは考えにくいことでした。

当時の但馬はだれが治めていたのか

但馬は、天正8年(1580)ごろ秀長が攻め取った国です。秀長が天正13年(1585)に大和へ移ったあとは、出石の前野長康をはじめ、秀吉の家臣たちが分けて治めていました。但馬には、のちに「天空の城」として知られる竹田城もあります。

一国を丸ごと一人に与えるとなれば、すでにいる家臣たちを動かさなければなりません。ドラマの「但馬一国」は、秀吉が妹のためならどんな代償も惜しまない、という気持ちを表すための誇張と考えられます。

前夫のその後

副田甚兵衛のその後については、出家したという話のほか、五百石の扶持を与えられたという話も伝わります。一方、もう一人の前夫候補・佐治日向守には、離縁のあと自害したという話が残ります。いずれにしても、天下人の妹を妻に持った男は、天下の都合で妻を失ったのです(佐治日向守とは)。

▷ 大河ドラマではどう描かれるか(放送前の予想)
『豊臣兄弟!』第40回「あさひの輿入れ」は10月18日(日)放送予定です。ドラマでは、秀吉が吉成に但馬の国を与えると申し出ますが、吉成は離縁を拒み、あさひを連れて逃げようとすると伝えられています。放送後にこの枠を更新します。

よくある質問

Q. 秀吉はあさひの夫に但馬一国を与えたのですか?
A. 記録はありません。江戸時代の『塩尻』に、五万石の加増を示されたが断って出家した、という話が伝わります。

Q. なぜドラマでは「但馬」なのですか?
A. 前夫とされる副田甚兵衛吉成が、秀長のもとで但馬攻めに加わり、但馬の城を任された史実を踏まえたものと考えられます。

Q. 『豊臣兄弟!』であさひの夫・甚助を演じるのは誰ですか?
A. 前原瑞樹さんです。あさひは倉沢杏菜さんが演じています。

Q. 旭姫の前夫は誰ですか?
A. 副田甚兵衛吉成とする説と、佐治日向守とする説があります。

まとめ

ドラマで秀吉があさひの夫に示す「但馬一国」は、前夫とされる副田甚兵衛が但馬で働いた史実と、『塩尻』の「五万石の加増を断った」という話を下敷きにした演出と考えられます。当時の但馬は秀吉の家臣たちが分けて治めており、一国を与えるのは現実的ではありませんでした。それでも、見返りを拒んで妻を手放した夫の姿は、史実の伝承とドラマに共通しています。

参考:天野信景『塩尻』/『武功夜話』/福田千鶴『淀殿』ミネルヴァ書房

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