台徳院殿霊廟の模型|なぜ100年間イギリス王室にあったのか、増上寺で見られる今の姿

増上寺 大殿と東京タワー
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台徳院殿霊廟の模型とは|「幻の霊廟」を今に伝える十分の一の姿

テレビ番組でもたびたび取り上げられる徳川家霊廟のうち、増上寺の台徳院殿霊廟は1945年の空襲でそのほとんどを焼失し、今は実物を見ることができません。ところが、その壮麗な姿を伝える精密な模型が、今も増上寺で公開されていることはあまり知られていません。しかもこの模型、かつて100年近くもイギリスに渡っていたという数奇な経歴を持ちます。

(増上寺・寛永寺の霊廟全体の話は、こちらの記事にまとめています。)

増上寺 三解脱門

明治の終わり、東京美術学校が作った四×六メートルの精密模型

実物がまだ健在だった1909〜1910年頃、東京美術学校(現・東京藝術大学)の監修のもとでこの模型は製作されました。建築を古宇田実教授、彫刻を高村光雲教授が手がけたと伝わります。本殿・相の間・拝殿・中門・透塀まで、霊廟を構成する主要な建物をすべて含む本格的なもので、大きさは全体で4×6メートル、縮尺は10分の1。木組みや漆、金銀の蒔絵に至るまで、実物と同じ技法を用いて忠実に再現されたといいます。

彫刻を手がけた高村光雲は、上野公園の西郷隆盛像を制作したことでも知られる明治を代表する彫刻家で、詩人・高村光太郎の父でもあります。当代一流の職人たちが、実物の霊廟を前にして細部まで写し取った模型だからこそ、のちに実物が失われたとき、その価値が一気に高まることになりました。霊廟が建っていた増上寺と寛永寺の全体像は徳川家霊廟とはで書いています。

日英博覧会に出品され、そのままイギリス国王へ

1910年、ロンドンで日英博覧会が開催され、この模型は東京市の展示物として出品されました。会期終了後、模型は当時のイギリス国王ジョージ5世に贈呈され、以後は英国王室のロイヤル・コレクションの一つとして大切に保管されることになりました。

結果として、この巡り合わせが模型を救うことになります。東京にあった実物の台徳院殿霊廟は1945年の東京大空襲で焼失したが、海を渡っていた模型は戦火を免れました。実物のモノクロ写真しか残っていなかった内部の装飾や彩色を、立体で確認できる史料としては、この模型がほぼ唯一の存在になっています。

日英博覧会が開かれたのは、日本とイギリスが日英同盟を結んでいた時期です。日本は、近代国家としての力だけでなく、長い歴史と美術の伝統を持つ国であることを世界に示そうとしていました。徳川将軍の霊廟の模型は、そのための目玉の一つでした。模型が英国王室に贈られたのも、同盟国どうしの友好の証という意味があったと考えられます。

百年ぶりの里帰り

模型は百年あまりの時を経て日本へ返還され、小西美術工藝社による本殿部分の修復とクリーニングを経て、現在は増上寺の宝物展示室で公開されています。修復・復元の過程は、デジタルハリウッド大学大学院の研究室によって4K映像で記録もされました。

東京の実物は焼け、海の向こうに渡った模型だけが残ります。もし模型がロンドンに渡っていなければ、空襲で実物とともに失われていたかもしれません。百年の時を経て、模型は霊廟があった増上寺へ戻ってきたのです。秀忠をはじめ増上寺に眠る将軍たちについては徳川将軍15人の墓はどこにあるのかをどうぞ。

秀忠のために、家光が建てた霊廟

台徳院殿霊廟は、二代将軍・徳川秀忠のために、息子の三代家光が寛永九年(1632年)に増上寺に建てた霊廟です。「台徳院」は秀忠の院号です。家光は父の霊廟に惜しみなく費用をかけ、本殿・相の間・拝殿をつなぐ権現造りの建物を、極彩色の彫刻と漆、金具で飾り立てました。のちに家光が家康のために日光東照宮を建て替えたとき、その手本の一つになったとも言われます。昭和の初めには国宝に指定されたが、昭和二十年の空襲で焼け落ちました。秀忠がいま眠る場所や、ほかの将軍の墓は徳川将軍15人の墓はどこにあるのかで一覧にしています。

模型からわかること|CG復元の手がかりに

実物の台徳院殿霊廟について残っているのは、主に白黒の写真と図面です。色や細部の装飾、建物どうしの立体的な関係は、写真だけではわかりません。十分の一の模型は、実物と同じ技法で色や蒔絵まで再現していたため、失われた霊廟の姿を知るほとんど唯一の立体資料になりました。近年は、この模型や古写真をもとに、霊廟をコンピューターグラフィックスで復元する試みも行われ、極彩色の建物が画面の上でよみがえっています。墓所の改葬のときに行われた将軍たちの遺骨の調査については増上寺の将軍の墓の発掘調査でわかったことで書いています。

模型を見に行くには

増上寺の大殿と東京タワー

模型が展示されている増上寺。大殿の後ろに東京タワーが見える(筆者撮影)

増上寺宝物展示室の開館時間は平日11:00〜15:00、土日祝10:00〜16:00で、休館日は火曜日、入館料は一般700円(最新情報は増上寺公式サイトで要確認)。徳川将軍家墓所の特別拝観とあわせて見学することができます。

東京の中心部から姿を消した霊廟の壮麗さを、今にいちばん近い形で体感できる場所と言っていいでしょう。

【あわせて読みたい】

増上寺・寛永寺の霊廟全体の話、なぜ二つの寺に分かれているのか、戦後どうなったのかについては、徳川家霊廟|東京から消えた「幻の世界遺産」 増上寺・寛永寺に眠る将軍たちにまとめています。

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